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日本国際交流センター(JCIE)は日本政府が推進するアジア健康構想(Asia Health and Wellbeing Initiative: AHWIN)における国際対話の一環として、2022年11月8日に東アジア・アセアン経済研究センター(ERIA)との共催で、AHWINフォーラム「アジアの健康長寿にテクノロジーの力を活かす」を開催しました。会場となった東京プリンスホテルおよびオンライン参加者を繋ぐハイブリッド形式のイベントで政府関係者、大学や研究機関の研究者、医療・介護分野の実務家、ヘルスケア・介護関連企業代表、介護サービス事業者代表、国際機関、市民社会代表を含む、約250名(うち会場115名、オンライン135名)が参加しました。急速に高齢化が進むアジア諸国における高齢者の健康を支えるテクノロジーおよび暮らしやすいまちづくりについて、今後の在り方やその課題が議論されました。
当日のプログラムおよび講師略歴一覧はこちらからご覧いただけます。また、英文サマリーはAHWINウェブサイト(英文)からご覧ください。
AHWIN Forum 2022: Harnessing the Power of Technology for Healthy Aging in Asia
基調講演を務めたシンガポール国立大学のジョン・ウォン教授は、アジアにおける高齢化のスピードについて話し、地域として大きな人口動態の変化に備えるべきですが、そのレベルは国ごとで差があるため、各国で経済的、社会的、科学的に長寿へ備えることは世界的に急務であると強調しました。また、ウォン教授が国際委員を務める全米医学アカデミーが発表した「健康長寿のためのグローバルロードマップ」(The National Academy of Medicine’s Global Roadmap for Healthy Longevity)の内容にも触れ、提言されていることのアジアにおける意義や、日本のアジア健康構想との関連について発表されました。日本と同様に、少子高齢化が急速に進むシンガポールでは、高齢者の暮らしを支える社会的施策やイノベーションが多く生み出されており、両国で培われた知見がアジア地域内で共有され、相互の学び合いが加速化されることに期待を示しました。
パネルセッション1は「科学的データと革新的技術の政策への応用と社会実装」と題し、医学、ビジネス、および工学的視点から、イノベーションを生み出すためのデータの意義について各パネリストが議論しました。マヒドン大学医学部シリラート病院のプラサート・アッサンタチャイ教授は高齢者のニーズに特化し、老年症候群(不安定性、不動性、失禁、知的障害、不眠症)といった高齢者特有の課題に対応するイノベーションと技術を生み出すことの重要性と、老年学専門医はイノベーションが必要な分野を特定する上で重要な役割を担うと強調しました。
米国を拠点に活動する実業家である藤田浩之クオリティー・エレクトロダイナミクス社創業者兼CEOは、ビジネス面における長寿の意義について、人が「健康的」に歳をとれば、寿命が延びることで自分自身や社会に莫大な価値を生み出すことができると話されました。例として、55歳以上の労働者があと1年働けば、GDPは年間1.5%、あるいは3億米ドル以上増加する可能性があり、これらは「健康創造価値」すなわち健康から生じる価値であると述べました。
オンラインで参加したアシッシュ・ナラヤン国際電気通信連合(ITU)アジア太平洋地域事務所プログラム・コーディネーターは、同地域のITU加盟国のデジタル戦略、サービスに関する支援を行っている経験から、地域間や世代間のデジタル格差に対応するためには、国際標準の確立による技術利用の標準化、分野横断的な協力、スキルアップが鍵となると強調しました。ブロードバンド普及率はCOVID死亡率と負の相関があるというデータもあり、デジタル化によって感染症による死亡が減少する可能性を示唆し、ブロードバンド・アクセスを「健康の決定要因(Determinant of health)」と考えようという呼びかけがなされました。
パネルセッション2「高齢者にやさしいまちづくり:モビリティと社会的包摂」では、エイジ・フレンドリー・シティをテーマとし、高齢者が安全に生活でき、地域とのつながりを維持できるまちづくりや環境整備について議論を行いました。都市設計とコミュニティ開発に関する研究に従事するシンガポール工科デザイン大学のチョン・ケン・フア准教授は、高齢者に優しい都市を設計する際の指針として、高齢者が家に閉じこもるのではなく、地域社会に出て行くことを奨励すること、ユニバーサルデザインではなくアダプティブデザインを推進すること、高齢者を製品デザインからの製作プロセスに関与させることのポイントを挙げました。
千葉大学予防医学センターの近藤克則教授は「移動と健康」をテーマに、ヤマハ発動機と共同で取り組んでいるグリーン・スロー・モビリティのモデル事業について発表しました。本プロジェクトは、地域に電動カートを導入し、高齢者の買い物などの手助けをし、外出を促すことで健康にどのような効果があるかを検証しました。外出することでコミュニケーションが生まれた以外にも、地域に暮らす男性高齢者が電動カートの運転手に立候補するなど、社会に貢献できるような役割をもつことは、世代間交流・結束と社会的包摂につながると紹介しました。
パネルセッション2のディスカッサントとして再度登壇したウォン教授は、総じて、高齢者を含む、すべての世代を包摂するまちづくりには、建築による環境の形成や、利用者のニーズに対応した交通手段の実現など、多方面からのアプローチが必要であり、高齢化は複数の分野を横断的に渡る複雑な課題であるため、健康長寿につながる変革的なイノベーションを生み出すには、社会全体の努力と政府の介入が必須となるとコメントしました。
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