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アフリカの健康課題に関するアラキジャTriple I共同議長と産官学民関係者との意見交換

日本国際交流センター(JCIE)は、2024514日に2023G7広島サミットで打ち出された「グローバルヘルスのためのインパクト投資イニシアティブ(Impact Investment Initiative for Global Health: Triple I) 」の共同議長を務めるアヨーデ・アラキジャ氏と、アフリカの健康課題解決に関心のある産官学民の関係者との懇談会を、内閣官房健康・医療戦略室および公益社団法人経済同友会と共催しました(於:日本工業倶楽部)。

懇談会では、同じくTriple I の共同議長である渋澤健氏(シブサワ・アンド・カンパニー株式会社 代表取締役)が司会進行を務めました。Triple I は、グローバルヘルス分野において、途上国を対象としたインパクト投資を推進することで民間資金動員を促進し、ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(UHC)や、SDGsの目標達成に貢献することを目指すものです。

冒頭、共催者を代表して挨拶した、JCIE理事長の狩野功は、2023年に改定された開発協力大綱において幅広いステークホルダーとの「共創(co-creation)」が強調されていることに触れ、保健分野は「人間の安全保障」の理念の下で 多くのステークホルダーが共に取り組むことのできる分野であり、とりわけ、投資において官と民が協力することの重要性について述べました。

アラキジャ氏のスピーチ

ナイジェリア出身のアラキジャ氏は、スピーチの冒頭、自身の父親が、少女に教育の機会を与えることの重要性を理解し、実践してくれたお陰で現在の自分があるとし、その体験が自身の活動の原動力になっていることにも触れ、人への投資が重要であること、そしてそれは経済の発展にもつながると述べました。

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミックについて、ワクチン・検査・治療薬等へのアクセスの点で生じた著しい南北格差は、アフリカが投資のパートナーとみなされてこなかったためでもあると指摘しました。高所得国が、有効期限切れ間近の余剰ワクチンを、低・中所得国に「寄付」した事例にも触れ、こうした旧来型の構図ではなく、官民が力を合わせて、社会的なインパクトを生み出す投資が今こそ求められている、と訴えました。

また、臨床検査・診断の研究開発のためのパートナーシップであるFINDの理事長でもある同氏は、COVID-19パンデミック下では日常的に検査が必要とされる事態となり、多くの人が検査の重要性を理解したことに触れ、検査分野に投資し、早期診断を促進することによって、治療薬にかかるコストよりも小さなコストで済む可能性があること、また、検査を充実させることで、適切な抗菌剤の処方にもつながり、AMR(薬剤耐性)対策にもなる、と述べました。

さらに、割れた陶磁器を繋ぎ合わせて新たなアートにまで高める日本の伝統技法「金継ぎ」になぞらえ、単独のセクターでは成し得ないことでも力を合わせることによって新たな価値を生み出すことができる、Triple I にはそのようなポテンシャルがある、と力強く訴えました。
【参考】 Ayoade Alakija, "Kintsugi for Global Health: The G7's Vision for Renewal Through Investment"

質疑応答

アラキジャ氏のスピーチに続いて、官民の様々なステークホルダーが効果的な連携を図り、社会課題を解決するとの視点から、幅広い話題について、活発な質疑応答が交わされました。

公益性が高い事業であっても、民間の金融機関が融資する場合、リスクが高いと判断され、融資が難しい場合もあり得る。公的セクターとも協力して、どのように投資の"de-risking"をするのか、という質問に対して、アラキジャ氏は、ナイジェリアにおいて、The Bank of Industry(ナイジェリアの開発金融機関)が世界銀行、国際金融公社(IFC)と協力して、女性の自立支援事業への投資を"de-risking"している事例を紹介しました。アラキジャ氏はさらに、この事例のように、大規模な投資をせずとも、小規模な優れた事例は多く存在しており、今後、アフリカにおいて特にヘルステック分野は市場の拡大が見込めることから、長期的な展望を持って社会課題解決型の事業に投資していくことが重要であると述べました。

様々なステークホルダーどうしの協力・連携は、より具体的な事業投資においても課題となることがあります。例えば、水と衛生(WASH)は人々の健康に直結する分野であることは明らかですが、公共インフラへの投資には、保健や財務に加え、国によっては水利を管理する省庁を含む多くのステークホルダーの関与が必要となります。しかし、いわゆる縦割り行政などの問題から、なかなか連携がうまくいっていない実情が共有されました。アラキジャ氏は、実行に様々な課題がありながらも、水と衛生のように多くの人々の健康を改善することで経済効果が生まれることが見込まれる分野は、従来型の援助依存ではなく、投資という観点からも、その有益性を語ることができる、と述べました。
【参考】 Ayoade Alakija, "From Local to Global: Yodi's Year of Global Health, Geopolitics and Diplomacy"

参加者からは、日本の経験についても共有されました。日本では、津々浦々の各地域(コミュニティ)で、プライマリ・ケアに当たる小規模な医療機関の多くは開業医、すなわち民間事業者によって担われています。医師が市中銀行から融資を受け、開業のための投資を行いますが、これが可能になるのは、国民皆保険制のもと、人々が医療を受けやすく、ある程度の安定的な需要が見込めるためであると考えられます。こうしたモデルを世界でも広く生かせないか、という指摘に対して、アラキジャ氏は、まさにそのような民間投資が、小規模であっても各コミュニティで行われ、それがさらにネットワーク化されることが重要だ、と応じました。加えて、検査・治療体制や価格体系が標準化され、公平なアクセスが保証されることも必要であり、ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(UHC)達成に向けて多くのパートナーの協力が不可欠であると強調しました。

一方、グローバルヘルス分野において「インパクト」を生み出す投資についての明確な指標が必要という指摘もありました。特に、スタートアップ企業や投資機関にとっては、その指標如何によっては、資金調達にも影響し得ます。この点については、渋澤氏から、Triple I の3本柱として、グローバルヘルスへの投資意欲を高めるプラットフォームとしての機能強化、インパクト投資の指標の検討、"de-risking"のための公的セクターの巻き込み、について鋭意取り組んでいる、という補足がありました。
【参考】 Triple I の3本柱
(1) Expanding visibility and engagement of Triple I and Impact Investing
(2) Support the development of the impact investing field
(3) Promoting the roles of governments and DFIs in expanding impact investing
The Round Table for the Triple I for Global Health (Dec. 07. 2023)

こうした議論を受け、Triple I 事務局の内閣官房健康・医療戦略室次長である鈴木秀生 国際保健担当大使は、チャリティから投資へ、という発想は革命的な転換であり、このアイディアを多くの人に伝え、適切な指標を設定し、Triple I が、まさに「金継ぎ」のように多くの人をつなぎ合わせる役割を担うようにしたい、との決意を述べ、懇談会を締めくくりました。

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