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日本国際交流センター(JCIE)民主主義の未来プロジェクトは、2023年7月26日に「民主的ガバナンス・普遍的価値観の推進に向けた政策対話」シリーズの第2回として「インド太平洋地域の普遍的価値の擁護 -広島サミット後の日本の役割」をテーマに、元駐ミャンマー米国大使のデレク・ミッチェル全米民主国際研究所(NDI)所長を講師に迎え、超党派の国会議員8名による懇談会を実施しました。
本懇談会では、今年5月の広島G7サミットにおいて出された首脳声明において、世界の平和、繁栄、平等、持続可能な開発を促進する最も永続的な手段として民主主義が掲げられ(47章)、G7諸国は、対話と協力を通じて人権侵害や濫用に対して声を上げていくことや、民間組織の役割にも着目し、支援することが盛り込まれたことを踏まえ(6章、45章)、これらの原則を具体的な成果に結び付けるために、政府レベルのみならず市民社会レベルでどのような努力が必要かについて対話と意見交換がなされました。
議論の要旨は以下の通りです。
冒頭、ミッチェル氏からインド太平洋地域において、自由、民主主義、人権の尊重、法の支配など普遍的価値やルールに基づく国際秩序に対する危機の高まりが共有された。他方、そのような中でも、特に女性や若者の間では、民主主義を望む声が非常に強いことが示され、彼らは民主主義を守り、より良くする原動力であると表現された。
ミッチェル氏は、民主主義は画一的なものではなく十国十色、各国のオーナーシップとビジョンに基づく多様性に満ちているとし、これらを尊重するためにNDIの活動は、単に外部から理念を押し付けたり、資金だけ供与するのではなく、被支援国の中に実際に入り、当事者やローカルパートナーと一緒に支援活動を行っていると述べ、それが組織の独自性に結び付いていることを紹介した。
ディスカッション中、ミッチェル氏は民主主義を実現する上で最も重要な民主主義の原則、自由・公正な選挙(Representative system under the law)、透明性・適切な管(Transparency)、国民への説明責任(Accountability)、すべての国民を包含(Inclusiveness)、の4つを繰り返し強調した。民主主義の実現には時間がかかるが、長い目で見れば、健康、開発、教育、平和の配当をもたらすことが多くの研究結果で証明されており、ひいては人間の尊厳や人間の安全保障の体現にも繋がる。企業、労働者、学術機関、市民社会、女性、ジャーナリスト、政党、政治家、宗教団体、LGBTQのすべてが、説明責任と効果的で対応力のある包摂的な統治を実現するためにそれぞれの役割を持っている。民主主義の実現には、これらすべてのステークホルダーがそれぞれの役割を果たす必要があり、それを実現可能にするのも民主主義であることを述べた。
続いて高須幸雄氏から、民主主義の未来研究会がイニシアチブをとるインド太平洋地域で普遍的価値の擁護に尽力する市民社会組織・メディアを支援する新たな資金スキーム「普遍的価値のためのインド太平洋プラットフォーム(Indo-Pacific Platform for Universal Values)」について紹介があった。既存の政府対政府の公的援助の枠組みでは届きにくい市民社会組織やメディアへの直接的支援を目的とするこのスキームは、先述のG7首脳宣言の具体化に繋がると説明した。加えて、本プラットフォームの実行委員メンバーでもある市原麻衣子 一橋大学教授は、自身が行っている政府や非国家主体からの脅威に直面している学者や実務家を一時的に保護する Democracy Advocates at Risk (DAR) について紹介した。質の高い研究、教育、言説には学者と学問の自由が不可欠であるとし、それと同時に、自由且つ独立した実務者は民主主義の防波堤であることから、支援の必要性を説明し、プラットフォームとも連携を模索していきたいと述べた。
出席議員からは、このプラットフォームに対する大きな期待が寄せられたほか、プラットフォームの支援が実行される際、現地法を順守しながらいかに効果的な活動を行っていくかについてNDIの活動の実態について質問がでるなど具体的実行面に関しても活発な質疑応答があった。また、気候変動や温暖化対策、COVID-19のパンデミックなど地球規模課題の解決と民主主義の関連についても質疑があった。こうした課題の解決には社会全体にわたる抜本的なシステムの変革が求められるため、社会的な合意と立法を含めた様々な政策決定が不可欠であることから、国民一人ひとりが主体である民主主義の重要性と、課題解決のためには民主主義自体も絶えず進化させていく必要性が改めて認識された。
ゲストスピーカー
デレク・ミッチェル、 全米民主国際研究所(NDI)所長
元ミャンマー駐在米国大使
モデレーター
高須幸雄、JCIE民主主義の未来プロジェクト主査;国連事務総長特別顧問(人間の安全保障担当)
本政策対話シリーズは、日本の外交政策や開発援助政策に、民主的ガバナンス―すなわち自由、説明責任、法の支配、個人の尊厳とエンパワメント等の価値に基づくガバナンス―をいかに組み込むかについて、喫緊の課題をテーマに日本の国会議員と海外の政策立案者、実務家、CSOリーダーの間での積極的かつ具体的な議論を促すことを目的に実施するものです。
冷戦終結により共産主義は自壊し、勝利した自由と民主主義が世界に拡散していくと信じられていました。ベルリンの壁崩壊から30年が経った今、世界各地では権威主義的統治手法が拡大し、先進民主国でさえポピュリズムの台頭でぐらつき始めています。今日の世界において、民主主義は顕著に後退していると言っても過言ではありません。
こうした問題意識を踏まえ、JCIEは、国際秩序と普遍的価値が現在どのような脅威にさらされているのかを理解し、日本としてどのような政策を展開できるのか検討する研究プロジェクト「民主主義の未来 -私たちの役割、日本の役割」を2018年に開始しました。
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