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日本国際交流センター(以下JCIE)および東アジア・アセアン経済研究センター(以下ERIA)は、2026年3月9日から13日にかけて、「アジア健康長寿イノベーション賞」(以下HAPI)大賞受賞団体の代表2名を日本に招き、日本の先進的な地域医療・ヘルスケアの実践を学ぶ1週間の視察プログラムを実施しました。今回来日したタイおよびフィリピンの代表は、同じく大賞を受賞した広島県のスタートアップの団体代表とともに、広島県と東京都の先進的な現場を視察するとともに、日本の政策関係者やビジネスリーダーとの対話を行いました。受賞者3名が一堂に会し、地域コミュニティと連動した高齢者支援、デジタル技術を活用した健康づくり、人材育成など、アジア各国に共通する課題となっている「健康長寿社会の実現に向けた実践知」を相互に共有し、今後の連携強化に向けた議論を深めました。
初日は、東広島市に拠点を置く社会福祉法人ゆず(代表:川原奨二氏)を訪問しました。ここでは、「住民とともに考え創造する」ことの重要性について説明があり、建築家や地域住民を巻き込みながら「心が動かされる施設」づくりを進めてきた経緯が紹介されました。また、介護と保育、ホテルなど異分野を組み合わせ、多世代が自然に交流する環境を創出する取り組みは、参加者に強い印象を与えました。

続いて一行は、HAPI大賞を受賞したナースアンドクラフトの拠点である瀬戸内海・大崎下島(呉市)を訪問し、IoT(Internet of Things/モノのインターネット)を活用したヘルスケア事業や、島のコミュニティによる地域再生活動を視察しました。過疎高齢化が進む地域において、訪問介護とコミュニティづくりを融合させ、医療と日常の間のギャップを埋める取り組みが紹介されました。特に、生活習慣データを可視化し健康指導につなげる「スタートウェル」は、テクノロジーと人の温かみを両立させたDX(デジタルトランスフォーメーション)の実践例として関心を集めました。
プログラム2日目には、受賞者に加え、広島県内の介護事業者や広島大学関係者らが参加するワークショップ「アジアに学び、アジアに届ける―コミュニティモデル・イノベーションの共創」が開催されました。タイのナッティー・スリー氏は、高齢者向けEラーニングを通じて学習と収入機会を提供する「MEDEE」プロジェクトを紹介し、試行錯誤を重ねながらコミュニティ全体で高齢者を支える仕組みを構築してきた経験を共有しました。フィリピンのエドレン・ラニージョ氏は、若者ボランティアが高齢者を支援する「Go Bike Project」を紹介し、HAPI受賞を契機に活動が発展し、自身が地方議員となった経緯を語りました。日本の参加者からも現場の課題や先進的な取り組みが共有され、国境を越えた知見の交流が行われました。
また、広島では呉市の新原芳明市長を表敬訪問し、本賞の概要や受賞事例について紹介するとともに、大崎下島での経験や学びについても共有しました。

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プログラム後半の3月12日には東京に移動し、政策関係者および経済界との対話を実施しました。武見敬三JCIEシニアフェロー同席のもと、経済界代表とのビジネス・ラウンドテーブルが開催され、受賞3団体がそれぞれの事業を紹介しました。参加企業からは、島嶼(とうしょ)地域への事業展開の可能性や、高齢者へのDX導入支援、行動変容を促す工夫など、実務的な観点からの質問が寄せられました。
その後、山本左近衆議院議員と面談し、各団体の現場での取り組みを紹介するとともに、政策面からどのように後押しできるかについて、意見を交わしました。


本視察プログラムは、アジア各国の実践者が日本の現場から学びを得ると同時に、日本の関係者にとってもアジアの多様なアプローチから新たな示唆を得る、相互学習の貴重な機会となりました。プログラムでは、地域に根差したコミュニティケアの実践から、IoTやAIを活用した新たなヘルスケアモデル、さらには政策やビジネスとの連携に至るまで、多岐にわたるテーマが取り上げられました。参加者は、日本の現場が直面する課題と革新的な解決策を直接見聞し、自国での取り組みに活かし得る多くの知見を得ました。HAPIが創出したネットワークを基盤に、こうした学びと交流が今後も有機的に発展し、アジア全体が直面する高齢化という共通課題の解決に向けたイノベーションの共創が一層進むことが期待されます。
「取り組みを持続・発展させるうえで、システマティックなアプローチの重要性を学びました。また、HAPIはただトロフィーを授与するにとどまらず、今回のプログラムを通じて、人と人、アイデア、そして国々をつなぐ架け橋となり、新たなつながりと友情を築く機会を提供してくれました。」 パディアレスキュー創設者兼代表 エドレン・ラニージョ (フィリピン)
「受賞者の皆さまや運営関係者の方々が、私たちの拠点であるこの地に実際に足を運び、日々の活動や地域の暮らしに触れ、同じ食卓を囲み、言葉を交わし、その空気を体感してくださいました。その光景は、これまで積み重ねてきた時間が確かに世界とつながった瞬間であり、私たちにとっても地域の皆さんにとっても、まるで夢のような出来事でした。この経験は、「この場所からでも社会に価値を届けることができる」という確かな実感となり、これからの挑戦を支える大きな原動力となっています。」 ナースアンドクラフト株式会社代表取締役 深澤裕之 (日本) *深澤氏 note 「アジア共通の課題に対する実践知を相互に共有するスタディツアー ~東京編~」
「プログラムに参加し、文化的背景や地域の違いはあっても、知見を持ち寄りながら強いコミュニティづくりに取り組むという目指す方向は共通していると感じました。また、その基盤となる高齢者のマインドセットの変革はタイとも共通していると実感するとともに、生きがいの重要性を改めて再確認しました。」 チェンマイ大学生涯教育学部准教授 ナッティー・スリー (タイ)
2026年3月15日付
中國新聞 「呉市で医療・福祉の国際交流、アジア健康長寿賞の受賞者ら集う」 *電子版全文を読むにはログインが必要です
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