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日本国際交流センター(JCIE)ならびに東アジア・アセアン経済研究センター(ERIA)は、1月31日タイ国バンコクにおいて第4回アジア健康長寿イノベーション賞(Healthy Aging Prize for Asian Innovation、以下HAPI)の授賞式を開催しました。
海外でのHAPI授賞式は今回が初めてでしたが、日本及びタイの政府・地方自治体関係者をはじめ、世界各国から国際機関や大学、研究機関、NPO、民間企業、メディア等、150名を超える関係者が参加、受賞10団体のうち今回の授賞式に出席した8団体(大賞3団体、特別賞1団体、準大賞1団体、奨励賞3団体)にトロフィーと賞状が授与されました。
当日の様子は以下からご覧いただけます。
狩野功JCIE理事長が授賞式の開会を宣言し、今回の受賞者への祝辞を述べた後、HAPI賞の意義として、高齢化社会の課題に取り組む革新的な事例を顕彰しそのノウハウをアジア域内で広く共有する役割を果たしてきたと説明、近年では市民団体や大学、地方自治体、民間企業等による多種連携の事例が多く受賞していることを紹介しました。
主賓挨拶の冒頭は、JCIEシニアフェローでもある武見敬三参議院議員がビデオで挨拶、今回受賞団体の活動の革新性を称賛するとともに、自身が第1回HAPIから国際選考委員長として関わっていることに触れ、「社会経済状況が異なる多くの国々からなるアジア地域では健康長寿の社会作りの方法も多様であり、HAPIに集まる多彩な好事例が多くの国々で共有、実践されることを期待している」と発言しました。次に、国連アジア太平洋経済社会委員会(ESCAP)事務次長のリン・ヤン氏は国連が2030年までの10年間を「健康的な高齢化の10年」としたことに触れ、特に少子高齢化が進むアジア太平洋地域における高齢者のデジタル・ディバイドやエイジズムへの対応、さらに高齢者の社会参加促進の必要性を強調、HAPIとその受賞者のネットワークが各国の経験の共有と連携に貢献することへの期待を述べました。
続いて、アセアン・アクティブ・エイジング・イノベーションセンター(ACAI)のソムサック・アックシルプ事務局長は4か月前に設立されたACAIの機能について触れ、「今後ACAIはHAPIのネットワークとも連携して、アセアンにおける高齢化に関する情報集積、エビデンスに基づく政策形成、人材育成、研究促進、モニタリング活動等のハブ機能を果たしていきたい」と述べました。過去の受賞者を代表して挨拶に立った第3回HAPI(2022)においてエイジズムへの取り組みで特別賞を受賞したブンメリット・メディア創設者兼マネージング・ディレクターのプラサン・インカナン氏は「HAPIの受賞は自分らの活動が政府や民間企業からも認められる大きなステップとなった」と述べ、受賞者に祝意とともにHAPIネットワークに参加して高齢社会の改善にともに取り組もうと呼びかけました。
テクノロジー&イノベーション、コミュニティ、自立支援の3部門で、以下の各団体が大賞を受賞、それぞれの代表者が受賞の挨拶と活動の紹介を行いました。
Nurse and Craft 株式会社(日本・広島) 「まちを再生する訪問看護」
右上:深澤裕之Nurse and Craft社代表取締役、右下:陸傑華北京大学教授
Nurse and Craft社代表取締役の深澤裕之氏が挨拶。「地方における高齢社会の課題は複合的に関連しており、健康長寿も医療・介護サービスの充実だけでは実現できず、高齢者の孤独の解消と地域における良好な人間関係の構築が必要」と述べて活動の概要を説明しました。
大賞授賞の理由について、国際選考委員会メンバーの北京大学陸傑華教授は、「Nurse&Craft社の活動が、遠隔地の高齢者に対していかに効果的に質の高い医療介護サービスを届けるかという課題に対して、最新の遠隔医療テクノロジーと医療者のヘルスツーリズムという革新的アプローチを組み合わせて対応した点を高く評価した」と述べました。
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パディアレスキュー (フィリピン・パンガシナン) 「ゴーバイク・プロジェクト」
右上:エドレン・リアニリオ パディアレスキュー常務取締役、右下:ハン・ドンヒ韓国高齢者生活向上科学研究所所長
パディアレスキュー常務取締役のエドレン・リアニリオ氏は、「祖母の看取りを通じて地域での高齢者支援の必要性を痛感し、それが活動のきっかけとなった」と述べて、地域の若者による防災と高齢者支援を融合させたゴーバイク事業の概要を説明。HAPI受賞を機により多くの支援を得て事業の拡大を目指すと意欲を語りました。
大賞授賞の理由について、国際選考委員の韓国高齢者生活向上科学研究所のハン・ドンヒ所長は「防災と高齢者支援という地域の課題解決に取り組むパティアレスキューの若い世代のエネルギーと革新的な発想」と述べて、世代を超えた連携を実現した取り組みを称賛しました。
プレゼン資料 | 英文概要
チェンマイ大学生涯教育学部(タイ・チェンマイ) 「MEDEE ーデジタル時代における高齢者の職業スキルを育成するプログラム」
右上:トム・ナッティ・スリーチェンマイ大学生涯教育学部准教授、右下:テンク・アイザン・ハミッド マレーシア老年学研究所元所長
プログラムの代表を務めるチェンマイ大学生涯教育学部准教授のトム・ナッティ・スリー氏は、活動の概要を説明し、「老後をただ残りの日々を数えるのではなく、毎日を意義ある日々として積み上げられるよう、高齢者にこそ学習機会と潜在能力を発揮することのできる場を提供すべき」と参加者に語り掛けました。
国際選考委員でマレーシア老年学研究所元所長のテンク・アイザン・ハミッド氏はMEDEEの活動について、「従来の高齢者向けのオンライン教室にとどまらない、高齢者がデジタル時代に成功するためのデジタルリテラシーや起業家精神などの総合的な知見を習得する場を提供している点、また活動の持続性にも配慮した活動体制を高く評価した」と大賞授賞の理由を述べました。
プレゼン資料 | 英文概要
中央大学校地域ケアと健康公平性研究所、サマリー A.I.、井邑市公衆衛生センター (韓国・井邑) 「ケアネット―過疎地域の高齢者のためのスマート統合ケアアプローチ 」
右上:スーザン・パーク央大学校地域ケアと健康公平性研究所教授、右下:ペ・キム・チュー ツァオ財団シニア・アドバイザー
中央大学校地域ケアと健康公平性研究所のスーザン・パーク教授は受賞の謝意とともに、受賞活動を紹介。「高齢化とヘルスケアの未整備という韓国地方部の課題に対し、AI技術を駆使した多層的ケアシステムを導入しつつ、地域ケアマネジャーを配置し、多様なケアサービスの調整と同システムを利用する高齢者のデジタルデバイドの解消のための地域活動を合わせて行った」と活動の経緯を説明しました。
大賞授賞の理由について選考委員のツァオ財団シニア・アドバイザーのペ・キム・チュー氏は、「この事例が過疎地のコミュニティーレベルでの地域包括的な高齢者支援を高齢者自身の主体性を重視しながら展開している点を高く評価し、受賞に至った」と述べました。
プレゼン資料 | 英文概要
左:チュンルタイ・カンチャナチトラ マヒドン大学シニア・アドバイザー、中央上:中西浩ビューティーライフ社代表取締役(左)、森垣龍馬徳島大学大学院特任教授(右)、中央下:ドゥアンジャイ・ロータナヴァニッチABCDセンター共同設立者兼ディレクター、右上:ヴァリッサラ・クリッブア ヤングハッピープラス代表、右下:モハド・ナジム・モフタール マレーシア老年学研究所副局長
今回から選考委員に参画したマヒドン大学シニア・アドバイザーのチュンルタイ・カンチャナチトラ氏は、本賞の選考は応募活動の場所や規模の大小、またアプローチの違いに依らず、多面的な視点で仔細にわたって行われたことに触れつつ、デジタル技術を生かした準大賞1件と奨励賞3件の事例を紹介しました。
徳島大学大学院医歯薬学研究部先端脳機能研究開発分野、ビューティーライフ株式会社(日本・徳島) 「産学連携による高齢者のためのオンライン体操サロン」
徳島大学大学院の森垣龍馬特任教授とともに登壇したビューティーライフ社の中西浩代表取締役は、受賞した高齢者向けのオンライン体操システムについて、大学と民間企業の協業での開発過程を説明し、「今後は実用プランや記録化、さらに認知機能やフレイルの評価機能の拡充を図って高齢者の健康長寿に一層貢献したい」と抱負を語りました。英文概要はこちら
準大賞はこのほか、シンガポールのライオン・ビフレンダース・サービス協会による「アイム・オーケー・プログラム」(テクノロジー&イノベーション部門)、同じくシンガポールのタイフアクアン・モラルチャリティーと統合ケア機構による「高齢者のためのマイクロジョブ・プログラム」(コミュニティ部門)の2団体も受賞しました。
今回、大賞・特別賞・準大賞に加えて奨励賞が設けられて、次の3団体が受賞しました。
ヤングハッピープラス (タイ・バンコク) 「都市部の高齢者の生活の質を向上させるヤングハッピープラスのオンライン・コミュニティ・プラットフォーム」
ヤングハッピープラスを代表してヴァリッサラ・クリッブア氏は、受賞の謝意とともに、高齢者向けに企画されたオンラインとオンサイト双方でのイベントや学習機会の提供を通して都市部高齢者の活発な活動支援をする受賞プログラムを紹介しました。英文概要はこちら
タマサート大学大学院ビジネススクール ABCD センター(タイ・バンコク)「レディ・シニア・プロジェクト」
ABCDセンターの共同設立者でディレクターでもあるドゥアンジャイ・ロータナヴァニッチ氏は、オンラインでの学習機会や就業情報、オンラインマーケットでの売買ノウハウなど、高齢者向けの生涯学習のプラットフォームを整備運営する受賞事例のレディ・シニア・プロジェクトの紹介を行いました。英文概要はこちら
マレーシア老年学研究所(マレーシア・クアラルンプール) 「高齢者のためのデジタルリテラシーモジュール」
同研究所のモハド・ナジム・モフタール副局長は受賞の謝辞を述べるとともに、「研究所が継続して行ってきた高齢者のデジタルデバイドの解消とデジタル社会への積極的な参加のための調査研究や社会実装の努力と成果が今回の受賞につながった」と述べました。英文概要はこちら
授賞式の閉会にあたり、主催の2機関を代償してERIAの三橋康之保健介護施策室長は、受賞者への祝意と授賞式参加者並びにHAPIに関わった関係者への謝意を表し、今回の受賞活動のさらなる発展、そしてその知見が広く共有されることで高齢化する社会がより良いものとなることを祈念する旨を述べて式の閉会を宣言しました。
「アジア健康長寿イノベーション賞」(Healthy Aging Prize for Asian Innovation、以下HAPI)は、日本政府によるアジア健康構想の一環として、ERIAおよびJCIE が2020年に創設した表彰事業で、健康長寿の達成、高齢者ケアの向上に資する取り組みをアジア各国から募集し表彰するものです。テクノロジー&イノベーション、コミュニティ、自立支援の3分野で、高齢化による様々な課題の解決となる革新的なプログラム、サービス、製品、政策を募集・表彰することにより、アジア地域内で優れた知見を共有、その実際の応用を後押し、この地域の共通課題である急速な高齢化に共に対応していくことを目的としています。各年の受賞団体一覧は以下のリンクよりご覧ください
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